以前まちゼミにて講義予定であったうなぎと許可の講義を、最新の情報も加え記事にしてみました。全6回程度を予定しています。息抜き程度にお楽しみください。
なお、本ブログに記載する情報の利用については、あくまで参考としてご活用ください。筆者が情報の正確性・完全性・最新性を保証するものではありません。
1.海で生まれ、川で育ち、再び海へ
うなぎ(ニホンウナギ Anguilla japonica)は、太平洋の外洋で産卵→レプトセファルス(柳葉状仔魚)として海流に乗って漂流→日本近海でシラスウナギに変態→河口や川・湖で成長(黄ウナギ)→成熟(銀ウナギ)して再び外洋の産卵場へ向かうという回遊サイクルで一生を送ります[1][4][5]。
2. 産卵場所と時期:西マリアナ海嶺、新月期に集中
・2000年代以降の調査で、ニホンウナギの産卵場は「西マリアナ海嶺」付近(北緯約12–16度・東経約140–143度帯)にあることが、卵の直接採集・初期仔魚の分布・海底地形と水塊構造の解析から裏づけられました[1][2][3]。
・産卵は新月期に集中することが、採集された卵の日齢解析と調査時期の突合で示されています。卵は直径約1.6mm、受精後約1日齢の個体が新月直後に相次いで見つかりました[3]。
・衛星標識の雌成魚(銀ウナギ)は、外洋で日周鉛直移動(夜は浅く・日中は深く)を繰り返しつつ産卵海域へ向かう挙動が示されました[6][7][8]。
3. レプトセファルス(柳葉状仔魚):海流に乗って日本へ
・孵化後の仔魚は「レプトセファルス」と呼ばれる透明で柳葉状の形。まず西風赤道流(NEC)に乗って西進し、そこで分岐する黒潮に乗って北上、日本列島や東シナ海の陸棚縁辺に到達します[4][9]。
・変態のタイミングは、黒潮前線・沿岸陸棚の環境(塩分・水温・餌)に影響を受けると考えられ、沿岸に近づくと「シラスウナギ」に変態します[4]。また黒潮大蛇行や海況変動が加入(来遊)の年変動に効くことが示唆されています[10]。
4. シラスウナギ → 黄ウナギ:河口から内水面へ
・シラスウナギは主に冬~春にかけて河口域に現れ、感潮域から上流・湖沼へと分散します。汽水~淡水で数年を過ごし、体色が黄褐色の「黄ウナギ」として摂餌・成長します[4][5]。
・地域や個体で成長速度は異なりますが、概ね数年の内水面生活の後、成熟の前段階で海に下る準備(銀化)が始まります[4][5]。
5. 銀化と外洋回遊:目が大きく、体色が銀へ
・成熟に向けた形態変化(銀化)では、眼径が拡大し(薄暗い外洋への適応)、体側が銀色化、胸鰭の形や体脂肪の蓄積などが進みます。内分泌・光周期・水温などが関与すると考えられています[4]。
・外洋に出た銀ウナギは、夜間はおよそ200~300m以浅、日中は500~800m付近まで潜降する日周鉛直移動(DVM)を行いながら産卵場へ[6][7][8]。
・一生に一度だけ産卵して死ぬが通説ですが、野外雌の「複数回産卵」示唆の組織学的報告があり、議論が続いています[11]。
6. 何がまだ分かっていない?最新研究の方向性
・外洋での正確な産卵行動(群れの規模、水深、行動シーケンス)は未解明の点が多く、衛星標識・環境DNA・流体モデルの統合でアプローチが進んでいます[6][12]。
・ナビゲーション(地磁気・海流・天体など)は仮説段階の要素も多く、海洋予測モデルと行動生理を結び付けた「最適回遊」の理論・数値実験が報告されています[12]。
7. 人工種苗(完全養殖)との関係
・日本では2002年に人工種苗生産(卵→シラスウナギまで)の成功、2010年には完全養殖(人工親→次世代仔魚)達成が公的研究機関から報告されました[4][13]。
・近年は、新月期の産卵知見や外洋挙動の理解が人工種苗研究を後押しし、仔魚飼料(乳タンパク・卵黄・酵素処理魚粉など)や量産型水槽の改良でコスト低減が進んでいます(関連特許・公式リリースあり)[14][15]。